____天下統一って・・・




「ちょっと、!もうちょっと加減して歩いてくれる?!」

息を弾ませて追うは、今までに幾人もの男たちの心を乱してきた美女、陽炎。
「これ以上ゆっくり歩いたら今日のご飯食べられないよ!」
しれっと吐いて、そんな美女に後を追われるは、陽炎を拾ってきたと言った少女、
ただでさえ一人分多く食費掛かるんだから・・・
ぶつぶつ呟くを尻目に
「やだ、怒った?ねぇ、怒った?」
などと嬉しそうに擦り寄ってくる陽炎を、ぐい、と手のひらで押しやって
歩き難い。と付け離すだった。
「あーん。冷たいってば!でもそんなもかーわい・・」
「それ以上うざいと置いてくから、ホント」
出会った頃は何て綺麗な女だろうと思ったも、流石にこの調子でくっ付いて来る陽炎に、
あの時の気持ちを返せ!と今まで何度思っただろう。

は如何いう訳かこの地に紛れ込んでしまったようで、
始めは大層困惑したが、を呼んだ『主』によると、ある偉業を成し遂げる事が出来れば、
を現実へと戻す事が出来るという。
その偉業とは、
「天下統一って・・・・」
溜息混じりに体を屈めて、あまりの無謀さに遠い現実を夢見るのだった。
そんなを知ってか知らずか、
どうしたの?と顔を覗き込む陽炎に、何でもない、と言ってまた歩き出した。

街を練り歩く美女と少女。
少女、は今は少年のような格好をしている。
理由は簡単だった。
彼女はあまりにも目立つからだ。
こちらに来て気が付いたのだが、
はほぼ金髪に近い明るい茶髪を腰あたりまで伸ばしていた。
国は違えど、この国には当たり前だがそんな身なりの少女は、
あたし異国の者です!と主張して歩いているようなものだ。

「でもさぁ、まさかあたしも本当だったとは思わなかったわよ」
高い靴をカランと音を立てて、まってよ!という陽炎を
容赦なく自分のペースを乱さず歩いていった。
何が?というようにちら、と陽炎を見遣ったを追い越して
「アンタがまさか変装の達人だったなんてね!あたしも色んな奴らを見てきたけど、
 アンタみたいな変わった子は初めてよ」
肩を竦める様にそう言った陽炎だったが、は内心
そりゃそうだよ、あたしはこの世界の人間じゃないしね・・・
と盛大な溜息をこぼしてごちたところだった。

「まぁ、何はともあれ、あたしはあんたに救われたんだ。この命、あんたに捧げるよ」
陽炎が男たちに襲われそうになっていたところを助けたのは
どう見ても男性にしか見えないように変装して現れただった。
今は少年のように変装しているのだが。
(そのせいでか、陽炎が先ほどからを見ては可愛いと連呼していた)
「捧げるって?別にあたしは特別何もしてないよ。困ってる人はほっとけないだけ」
突然真面目に言った陽炎に、はやっと口を開いた。
元々、口数が少ないわけではない。
ただ、このどう見ても自分とはかけ離れた陽炎という女を
信用していいものか、見極められていないだけ。

陽炎と行動を共にするようになって半月になる。
今までの生活の違いもあってか、お互い最初は驚かされる事ばかりだった。
もとより、は国を越え、時代を越えやってきているのだが。
たちは、賞金稼ぎをしながら生活していた。
どの時代にも悪さをする輩はいるもので、
この街にもそんなどうしようもない奴らがわらわらいた。
当然、悪き者を追う奴らが必要なわけで。

はかれこれ19年生きてきて、普通の女の子として
育ってきた。当然人をたたきのめした事も、捕獲して金を貰った事も
初体験であった。
というか、そもそもこっちじゃ全部初体験よ!

を『こっち』につれてきたあの爺さんにが願ったのは、
まず、読み書きができる事だった。
(爺さんと話せるってことは、恐らく会話は普通に出来ると踏んでいた)
そして、生きるためにが選んだのは
人より秀でた運動能力だった。
そう言ったはいいものの、具体的にどうしたらいいかと
爺さんが言ったので、悩んだ挙句、が提案したのは

忍術!

だったのだ。
いや、自分でもお粗末だとは思ったけどさ・・・
「だってカッコいいじゃん、忍者・・・」
ぼそっと呟いたを陽炎は、変な子ねぇと然程気にした様子もなかった。
ううっ、とまだ唸っていたを、現実に引き戻したのは
「誰かぁぁぁぁ!!」
という女性の叫び声だった。
陽炎が、声を聞いてを見ようと振り返った時には
勢い良く駆け出していたの、真剣な顔がすばやく通り過ぎていった。