_____変な拾い物






朝日の眩しさに目が覚めた。
手首に痛みを覚え、目をやると血の滲んだ白い布で丁寧に覆われていた。
見渡せば見知らぬ部屋。
お世辞にも豪華とは言えないその造りだったが、どこか暖かい雰囲気を感じた。
ここはどこだろう。
立ち上がろうと体を起こすが体の重さに顔を顰めた。
「まだ無理だろう。ひどく体を打っていた様だ」
戸口の方に目をやると、見慣れない少女が立っていた。
少女といったが、この姿では、はっきりとした年が分からない。彼女は片目を除いて
顔全体に、細長い布をぐるりと何重にも巻き頭巾を被っていたのだ。
少女と特定したのは、その背丈と、予想より高めな彼女の声だけだったが。
「あなた・・・」
「声もちゃんと出てないだろう?水を持ってきた。飲むといい」
誰?と尋ねようとして陽炎は、自分の声が掠れて上手く出ない事に気付いた。
はい、と差し出された水を一口、含むと冷たさが喉に心地よく、
残りも一気に飲み干した。水をこんなに美味しいと思ったのは初めてかもしれない。
有難う、と杯を少女に渡し、不安げに少女を見た。
陽炎の視線に気付いたのか、少女はもう一杯いる?と頭を傾けて見せた。
それが大きく陽炎を安心させたのだった。


が夜遅くに女を担いでこの小さな宿に戻って来た時には、
それはもう宿の女将に驚かれた。
どうしたの?と聞かれたが、は何食わぬ顔で「拾った」と言って更に女将を驚かせた。
日を跨いで一日と半が過ぎ、それでも目を覚まさない女を前に、は多少不安になっていた。
「どうするかな」
変なもん拾った?と頭を抱えて悩み始めたが、
うっ、と小さく呻いた女に目をやり、はすぐさま部屋を出た。
小さな湯呑を手に、再びが部屋に戻ると、女は目を覚ました様子でこちらに目を向けた。
綺麗な人だな、はひっそり心の中で思ったが、女が何か言いたそうに口を動かすので
慌てて湯呑を渡した。
ああ、やっぱり喋れないのか。が女を見つけた時には、彼女はひどく乱れていて
口の中は血と唾液で溢れ、体の節々に擦り傷打撲の痕が見て取れ、酷い有様だった。
しかし女将に手伝って貰い体を拭き、手当てをした後の彼女は、が今まで出会った
女たちの中でも、相当な美しさだと感じた。
そんな事を考えていると、
「手当てをしてくれたのは、あなた?」
滑らかに通りの良い声が女の口から零れた。
「ああ、宿の女将さんも手伝ってくれたけれど」
そう・・・と呟いた女だったが、
「手当てを有難う。助かったわ」
直ぐに顔を弾いたように微笑ませた。
綺麗に笑う人だ、は思った。でも、これは多分、作り笑いだ。
「ねぇ」
女がに声を掛けた。は頭を軽く傾けて、何?という表情で返すだけだった。
「私をここまで連れてきてくれたのはあなたっていうのは分かったわ。私は陽炎って呼ばれてる。
 本当の名前は分からないけれど。あなたは?」
そう言ってに再び完璧に美しく整えられた微笑みを向けた。
ああ、この人はきっと、本当の笑い方を知らないんだ。
「・・・
「そう。じゃあ、。私を男たちから助けてくれた、あの人を知ってる?」
美しく整った顔に一瞬、赤みが宿ったのをは見逃さなかった。

これが、私と陽炎との出会いだった____